アーツブレインズ

THOUGHT

開発者の想い

【美への探求 vol.05】
ヒトゲノムの解読。私たちはどこからやってきたのか?

          

 2004年10月、ヒトゲノムの完全解読、2015年2月ネアンデルタール人のゲノムの6割解読。ここ10年程のDNA解読の凄まじい進歩によって、様々な真実が解明されつつあります。
ホモ・サピエンスとは「知恵のある人」を意味する呼び名です。以前はネアンデルタール人を私たちホモ・サピエンスの旧人であると考え、野蛮で劣った人類であると想像していた時代がかつてありました。しかし、ヒトゲノムの解析が明かしたことは、我々はネアンデルタール人と交雑していて、彼らのDNAを持っているという驚きの事実でした。

およそ30万年前、ホモ・サピエンスと共通の祖先(ホモ・ハイデルベルゲンシス)から分岐したネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスより先にユーラシア大陸に生息域を拡げていました。 彼らはホモ・サピエンスよりも脳容積も大きく、採取狩猟民として進化した体格を持ち、寒冷地生活にも適応していました。

 大きな肺や高く付きだした鼻、金髪、白い肌、青い目なども彼らから継承した私たちの容姿です。また、熱帯適合していたホモ・サピエンスは、 ネアンデルタール人から寒冷気候でも生存できるためのDNAをもらい、暖かいアフリカを出て寒いユーラシア大陸に拡がることもできました。私たちホモ・サピエンスは、 ネアンデルタール人との交雑によって優れた能力を獲得してきたのです。

 最近では、2008年にシベリアで発見されデニソワ人もゲノムの解読が始まり、ホモ・サピエンスと交配していることが判りました。 ヒマラヤのシェルパ族のゲノムの中にデニソワ人の遺伝子が発見されたからです。シェルパ族の体は高地対応しているため、酸素の少ない場所でも行動できます。 これまでエベレストを無酸素登頂した世界の登山家が名を掲げられてきましたが、この発見は、登山隊の荷物を抱えながら無酸素登頂を苦としないシェルパ族こそが、彼らを支えていたことを知らせるニュースでした。

text:野尻英行

  1. 01.人間の脳が生みだす、奇跡の芸術。
  2. 02.鏡の発見から、アイデンティティーとしての化粧へ。
  3. 03.二足歩行は悲劇をもたらした。だが、悲劇が希望を生んだ。
  4. 04.サルは子供から抱きつき、人は母親が抱きかかえる。
  5. 05.ヒトゲノムの解読。私たちはどこからやってきたのか?
  6. 06.ネアンデルタール人からもらった姿と心
  7. 07.人類決死の出アフリカ
  8. 08.北方系モンゴロイドと南方系モンゴロイドの誕生
  9. 09.「縄文系」と「弥生系」。ひとえとふたえの人がいるのは何故?
  10. 10.“前に向いてついた眼”
  11. 11.「平たい顔」「彫りの深い顔」